スピンオフするプロレス、の話

コラム

映画やアニメ、ゲームなどではすっかり定着した「スピンオフ」がようやくプロレス界でも活発になってきました。
2025年10月7日も「超人・石森太二はもっと無茶をする」が、平日開催ながら超満員札止めの後楽園ホールで開催され、大会内容も通常シリーズでは実現困難な対戦や他団体選手の登場などもあり、常に声援が飛ぶ大満足な興行を見られました。
今回は、このスピンオフ興行が今のプロレス界に与える影響や企画の是非について考えてみた、というお話です。

正しいスピンオフとは

近年、映像系エンタメ業界では多くのスピンオフ作品が注目を集めています。
人気作品の脇役やサブストーリーを軸に据えたスピンオフは、既存のファンを満足させつつ新たな視聴者を引き込む戦略として機能しています。本編というべきオリジナル作品に愛着がある既存のファンにも作品の掘り下げられなかった部分の深い世界観を表現することで、新鮮な驚きが提供されています。
私が思う正しいスピンオフとは「既存と新規、どちらも楽しめる」ものです。
既存と新規のどちらかに配慮と愛情が足りていない内容だった場合、それはただの模倣作品。定着どころか見向きもされないでしょう。

なかなか定着しなかったスピンオフ

競技系でもプロ野球はオールスターゲーム、大相撲は大相撲トーナメントなどと、数十年前からスピンオフ的な大会は存在しています。音楽業界であれば大型のフェスはそういう場なのかと思います。
一方でプロレス界。
以前は「ファン感謝祭」のような本編である通常シリーズの流れに関わらない単発興行もありましたが、それは所属選手の多いメジャー団体のみ(選手主催興行は除く)。
その後は通常シリーズの観客数も減少し、低迷期、いわゆるスピンオフ興行が定着しない状態が数年続いていました。
ですが、現在は急激に各団体が本編とは別のブランドを立ち上げたり、単発の特別興行を開催したり、選手やユニットが中心の主催大会が行われたりと、ここ数年でスピンオフ興行が急増しています。

プロレスはどの種類のスピンオフ?

そもそも、スピンオフとは。どんな種類があるのか。
本編とは異なる物語として「番外編」と呼んだりもします。同じ世界線で主人公が別のものは「外伝」。ストーリーはそのままで別の視点から表現するものは「サイドストーリー」。
プロレスでいうところのスピンオフは「出場する選手はキャラクターや経歴を背負ったまま出てくるが本編には絡まない全く別もの」という括りになるので、やっぱり「スピンオフ」という表現が一番伝わりやすいようですね。
簡単に言うと「非日常の非日常」といったところでしょうか。

「本編」ありきの「スピンオフ」

こういう興行が盛んになった現在のプロレス界において、「本編」の大会と「スピンオフ」の大会は、それぞれ異なる役割を果たしつつ、選手という共通する存在を利用して観客もスムーズにその世界に入り込み、それぞれを別の思考で理解し、時には共存し、どちらも違和感なく楽しめる世界観で業界の魅力を高めていると思います。
ただし、団体の中核を担う大会はあくまで「本編」です。
主要なストーリーやタイトルマッチを軸に展開されますし、その時点での団体を象徴する選手がメインに君臨しています。大事な場面や命運を左右するカードは「本編」で実現します。
一方で「スピンオフ」の大会は、本編での出来事を受けたうえで、特定のテーマや選手に焦点を当てた実験的なイベントです。だからこそ普段見られない光景に観客は満足できるのです。

スピンオフ興行が成立する最大の要因

実は、スピンオフ興行を成立させている大きな要因は、現在のファンの皆さんが本編とスピンオフの関係をしっかり認知しているところだと思うのです。
スピンオフが定着しなかった頃と現在で何が違うかと言えば、一番は「観客の質」だと思います。
また、ファンにとってはスピンオフ興行がきっかけで、他団体の選手に興味を持ったり、新しいプロレスの表現方法を知ったり、選手の人間味に触れられたりという刺激も多い場です。
参加した団体に新たなファンを増やし、各団体は既存の支持層を維持しつつ新規層も開拓でき、団体と団体、選手と観客という共栄の効果も生まれます。
これが先に述べた「既存と新規、どちらも楽しめる」という正しいスピンオフの意味です。
スピンオフ興行は発見の連続なのです。

相互補完の場としてのスピンオフ

スピンオフと本編は、異なる魅力でファンを惹きつけ、団体全体のブランド価値を高めます。それが他団体の選手やファンにも波及して影響力を与え合います。
この相互補完的な関係が、プロレス界の活性化と長期的な発展を可能にしている、と思うのです。
なので、個人的にはスピンオフ興行はどんどんやってほしい!というのが私論です。

今回のまとめ。

スピンオフ、大賛成!
でも、団体の軸である本編はしっかりと

丈夫な軸がないと付属する羽もきれいにスピンしませんから

ちなみに、最近のスピンオフ興行で一番理想的な場だなぁ、と感心したのは、
センダイガールズの「じゃじゃ馬トーナメント」です。
あれこそ、理想形。

では、またここで。

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