安定した自由はプロレスで作れる、の話

コラム

前回は「新人プロレスラーの個性と没個性」について、各団体ごとの傾向を探りましたが、今回はその流れとなる「個性と自由と不安定、没個性と不自由と安定」のお話です。

個性は自由の象徴

不安定は自由。安定は不自由。
プロレスラーに安定はありません。
団体からスター候補としてプッシュされたとしても、観客に認められなければ主役になれません。そして、トップになったとしてもそれを維持して同世代のライバルや先輩後輩という全世代のからの突き上げを跳ね返さねばなりません。また、怪我という最大の敵とも常に戦い続けなければならず、安定という場はないに等しいのです。
そう、プロレスラーはキャリアを通じて不安定過ぎる職業なのです。
なので、安定を求め引退を考えたり副業がいつの間にか本業になったりする選手も少なくありません。ただ、逆を言えば、プロレスラーは不安定=自由な職業でもあります。
この場合の「自由」というのは「好き勝手にやっていればお金が稼げる」ということではなく「自分の思うままのパフォーマンスで支持を得る、自分の力で商品価値を高められる」というもので、その自由に価値がなければ地位もポジションも変わらずくすぶったままなのです。
その「自由」こそが選手の「個性」なのです。
その個性を磨くために、デビュー直後はあえて個性を消したり、失敗覚悟で個性を試したりします。

自由と不自由、最適なルートは?

ではルーキーにおける個性と没個性、自由と不自由、どちらが最適なルートなのでしょう。
新日本のように新人時代は自由を剥奪する没個性。ただ、その間は不自由ながらも安定してプロレスラーとしての基礎をしっかり学び、、ゆくゆく手に入れる自由のために肉体的にも精神的にも成長することだけに集中した環境に身を置けるいうのは利点でもあります。約2~5年とかなり長い期間ですが、一概に没個性が不適合とはいえません。

DDTのようないきなり個性を出せる団体は自分の思うままにやって良い、ということですが、逆にデビュー戦からセンスを求められるわけで、実はかなりシビアなことです。
これは右も左もわからない新人選手にとっては酷なことですが、ここで個性が認められた場合、飛び級で注目される可能性も充分あります。自由ということは本人次第で大きく環境が変わるため不安定も大きいのがリスキーさがありますが、チャンスが最初から転がっていると思えば決して不適合でもありません。

伝統的な育成は日本プロレス界の宝

新人選手に個性を求める団体、個性を消す団体。
それぞれの育成方針が明確な現代の他団体時代はプロレスラーを目指す人にとって選択肢が多くある恵まれた環境だと思います。
何より、日本の育成システムが素晴らしいのは、旗揚げから何十年間も各団体の育成方針が一貫していることです。
新人選手のカラーがそのまま団体のカラーに繋がり他団体との差別化が自然と行われ、理想の選手像を持つプロレスラー志望の若者はもちろん、団体を長年応援し続けているファンにも馴染みやすいです。
新人と括れるキャリア期間は、その選手の「成長期」であることを見る側はしっかり認識しています。
育成方針変わると団体の未来も大きく変わってしまうので、伝統は大事にしていくべきだと思います。

個性の前に必要な「強さ」

プロレスにおいて個性はとても重要。
自分にしかできないものを自分で察知し、伸ばし、印象付ける。プロレスは自己プロデュースでスターになれる他に類を見ない競技なのです。
ただ、ひとつ忘れてはいけないこと。
個性が光るのも、その根本に「強さ」があるから。
あくまで「個性=影響力」であって「個性=強さ」ではありません。
プロレスラーとしては、まず強くならないといけません。強さを追及しない者には絶対に個性は生まれません
プロレスも他のどんな競技も「強さ」は最大の「個性」です。

新人時代はすべてのベース

キャリアの最初、新人時代は、どれだけ個性を埋もれさせても、個性を無理矢理やっていても、プロレスの基本を学び、肉体も精神もたくましく育てるための期間。
そして、自分の個性が認められる日に備えて自由に発想を研ぎ澄ます期間。
これからデビューする選手がその団体で最高に輝き、ゆくゆくはプロレス界そのものを牽引する選手になれるように。新人選手には全員その権利も素質もあるのです。

今回のまとめ。

新人時代は、プロレスのことだけ考えて良い期間
そのときの経験が将来「安定した自由」を生み出せる

ここまでの実績や知名度でデビュー前から個性が固まっているウルフ アロン選手。
来年の1.4でどんな個性を見せてくれるのか。そこに注目です。

では、またここで。

タイトルとURLをコピーしました