プロレスラーの個性はどこから?の話

コラム

2025年6月23日、柔道界の引退発表をしたばかりのウルフ アロン選手が新日本プロレスに入団し2026年の1.4東京ドーム大会でデビューするという発表があり、大きな話題になりました。
オリンピックで金メダルという実績はもちろん、地上波番組などでおなじみのキャラクター、トーク力、知名度、どれも個性抜群なウルフ選手が、早期にプロレス界に足を踏み入れてくれたことを嬉しく感じますし、期待感が半端ないですし、リスクを恐れない決断に感服しています。

ここでふと思いました。
鳴り物入りで入団し、デビュー前から実績に加え個性が確立されているウルフ選手。
個性がない状態でデビューして、キャリアとともにそれをつけていく一般的な選手。
プロレスラーにとって個性を出すことは最重要な部分ですが、はたしてこのどちらがプロレスラーとしては最適なのでしょうか。
ということで、今回と次回は「プロレスラーの個性と没個性」についてのお話です。
今回は各主要団体の新人選手の個性や試合スタイルなどの違いについて、ざっとさらっていきます。

新日本プロレスの場合

まず、53年の歴史がある新日本プロレス
デビュー時は基本、黒のショートタイツと黒のリングシューズのみのシンプルないでたち。これが新日本象徴のビジュアルであり伝統です。
若手選手は「ヤングライオン」と呼称され、デビュー後しばらくは派手な技を使わない若手然とした気迫重視の試合を求められます。それは観客に向けてだけではなく、新日本という看板を守るべく基本基礎だけで試合を組み立て、飾り気のない自己表現ができるようにするためだと思います。
「飾りはいらない、強さだけあればいい」というストロングスタイルの伝承的な「没個性」。
わかりやすく言うと「無課金プレイヤー」状態。
毎日ログインすればコインも手に入り、試合やセコンド業務で経験値も加算され、状況に応じて選手個々が必要と思ったものを装備していくだけ。最初に丸裸に近い姿を晒すからこそ、キャリアを重ね、海外武者修行後の凱旋帰国での変化がより一層際立つのです。
ヤングライオン期が幼虫だとすれば、海外修行がさなぎ。そして凱旋したとき一人前の煌びやかな蝶になる、というとわかりやすいでしょうか。
日本のプロレス界最大手として伝統を重んじるのが新日本です。

全日本プロレスの場合

その新日本と同じ年に旗揚げした全日本プロレスですが、今では設立当時の面影が全く残っていない、名前だけ継承した別団体になっています。ですが、旧体制から変わらずスカウト含めて新人選手の獲得と育成にはかなり力を注いでいる印象です。
昔からデビューする選手は、黒以外の単色系のショートタイツにそれに合わせた色のリングシューズが主。ただし色が明るいだけで、余計な装飾はありません。基本はシンプルです。
全日本でよく聞くエピソードに「急遽デビュー戦が決まりタイツとシューズの発注が間に合わないため、先輩のお古をいただきそれを着用して試合をした」というものがあります。このおさがりシステムも、色鮮やかなタイツでデビューする理由のひとつなのかと想像してしまいます。
もしかしたら、創設者である馬場さんが赤色のタイツを着用していたので、馬場×猪木という構図で新日本への差別化も含め、その明るい色を伝承しているのかもしれません。赤と黒、新人に受け継がれるタイツの色は馬場さんと猪木さんの象徴でもあります。
ともに団体創設者がいなくなった現在、全日本では新人選手でも黒いタイツの着用が多くなりました。
一方で派生した団体のノアでは、昔の全日本のような明るい色の単色タイツが今も多いです。
使用する技は基本的なものを中心に、自信の得意分野やバックボーンを活かしたフィニッシュを用意することが多いように感じます。

DDTプロレスリングの場合

斬新さで28年も団体として活動してきたDDTではメジャー団体とは真逆で「新人選手の黒パン禁止令」が出されているほど。「没・没個性」ともいうべき育成方針です。
団体のカラーとして、選手にもデビューと同時に個性が求められます。強烈なインパクトを持つ先輩方が多数いる中で自分にしかない個性を出さないと、この団体に属する意味すら消されてしまうからです。
デビュー直後から自己発信力が問われるというある種の厳しさ、文科系プロレス特有のある種の放任主義。目立つことにキャリアの長短は関係ありません。
無課金プレイヤーとは真逆のDDTは「新規登録すれば大量のコインがもらえるよ」状態。ただ、どのアイテムを選ぶかは新人プレイヤーのセンス次第なので個々の向き合い方が重要です。

DRAGON GATEの場合

さらにそれよりも「没・没個性」が顕著なのがDRAGON GATE。派手なコスチュームとアクロバティックな技を持つ新人選手にはリングネームも用意されますし、デビューしてすぐにユニット加入もヒール転向もありますし、練習生時代からリングの中でパフォーマンスを行い登場人物のひとりになることも珍しいことではありません。ですので、デビューの時にはもう選手の個性が出来上がっていることが多い印象です。

女子プロレス団体の場合

女子団体や選手ですが、コスチュームはデビュー戦から舞台衣装寄り派手なものを着用します。
現代ではコンプラ的に競泳水着1枚というのはむしろ難しいのかもしれません。
あらゆる装飾を付けることで、体のラインや華やかさを強調し、華やかなルックスやキャラクターを印象付けられる技術は女子選手だからこそ可能なことで、プロの表現者として大切な要素だと思います。
またその逆で、長与千種選手が設立したMarvelousの近年の新人女子選手は、衣装のような派手なものではなく、競泳水着のような単色のワンピース型のシンプルな競技的コスチュームでデビューしています。試合で出す技も極力基本的なものだけ。選手は覚えた技を出すことよりも気迫と闘争心で戦います。コスチュームも試合のスタイルも、昭和の全日本女子の再現のようです。

WWEの場合

世界の最大手、WWE。の前にまず。
プロレスにおける道場というのは日本独自のもので、アメリカでは入門から基礎体力をつけ、基礎練習をし、上下関係を保ちながらデビューを待つ、というシステムは存在しません。
WWEやAEWなどの大手団体では既に独立団体でデビューしている選手をスカウト、またはトライアウトで獲得し、スター選手へと成長させる…というプロセスなので、練習生や若手という括りがないのです。
そんな中で2013年にWWEがパフォーマンスセンターという選手育成のためのプロレス養成所を設立しました。
ただし、ここはあくまでWWEに入団したもしくは入団の意思のある選手などの練習拠点であり養成所で、プロレスラー志望者が入門テストを受けて練習生になるという日本の道場とは意味合いが全く異なります。
日本とアメリカでは基礎や基盤の組み立て方が別の競技のようなものなので、日本のプロレスに憧れる外国人選手が日本に留学という形で道場生からキャリアをリスタートさせるプロレスも多くなってきました。

新人選手のデビューこそ各団体の個性

他にも独立系の団体ではマスクマンとしてデビューしたり、デビュー戦がタイトルマッチだったりというケースも珍しくありません。デビュー戦で地元凱旋興行なんていうのもあります。凱旋の意味がもうわかりませんが。
今はキャリアと地位がある選手が逆に黒いショートタイツと黒いリングシューズのままだったら、むしろそれが個性になるという逆転現象を生んでいる時代です。
このように、老舗団体は伝統を守り続けることを見せ、インディー団体や女子選手は伝統や歴史に捉われず新しいものを見せる、というのが新人選手のコスチュームやスタイルによる個性です。

次回はこれを踏まえて、新人選手の個性と没個性はどちらが最善なのか、プロレスラーにとって個性とは、について書いていきます。

では、またここで。

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