時刻はそろそろ午後8時。ここはスーパーマーケットのお総菜売り場。この時間とあって客足も商品もまばら。そんなお総菜売り場に残されたのは「半額」のシールが貼られているお弁当がひとつ。
今夜の標的を発見した私はその弁当へと近付く。と同時に、周囲を物色していた独身風サラリーマンも近距離に。お互いがお弁当を意識し始めたとき、自称買い物上手なおばさまというさらなるライバルが登場。3人の目線は交わらずも火花が散るお総菜売り場の額弁当争奪戦。この瞬間、私は「3WAYマッチかよ!」と脳内でつっこみを入れていたのです。
ということで、今回は「3WAYマッチ」について考えてみた、の話です。

すっかりおなじみ、3WAYマッチ
プロレスファンならばこの「3WAYマッチ(トリプルスレット)」という試合形式は説明不要なくらいおなじみになりましたが、簡単な言葉で表現するなら「自分と敵と敵」です。
3WAYは3選手ですが、4WAYや5WAY、タッグ3WAYなどもあります。自分や自軍以外は敵。じゃあどうやって勝とうかな、という戦略も必要となる特殊なルールです。
海外でも日本でも男子でも女子でも見られる試合形式で、今では主要タイトルの特別ルールに採用されたり、3WAYのタイトルが設立されるくらいメジャーになりました。

3WAYマッチの利点
なぜこの3WAYマッチがプロレスの試合形式として定着したのか。それにはいくつものメリットがあるからだと思います。
・複数のレスラーがひとつの試合で見せ場を作れる
・奇数人数だったり共闘できないユニットが複数あっても試合が組める
・タイトル戦の場合、王者が直接負けなくてもタイトル移動になるため、負けることなく次の王者にベルトが移動できる
・3選手以上が絡んだ複雑な因縁や抗争、ライバル関係をひとつの試合で見ることができる
・普段はなかなか見られない新鮮でレアな絡みが実現しやすい
・通常の試合と異なる試合展開になるため観客にとって新鮮さがあり、興行のアクセントとなる

3WAYマッチの問題点
その一方で、特殊な3WAYマッチならではの課題や問題点もあるのです。
・常に誰かが戦っている状況になるため、試合の緩急が付けにくい
・攻防や展開が激しく変わるため、観客(特に初心者)の視点が追いつかなくなり、どこを主軸に見てよいかわからなくなる
・ルールの性質上決着がつきにくいので、試合が間延びしてしまうこともある
・戦いの激しさよりもコミカルさが目立ってしまう
・心理的な駆け引きよりも技の掛け合い受け合いがメインになるので、選手の感情が出にくい
・全選手が同時に動くことで流れやパフォーマンスが噛み合わず、技の失敗やアクシデントに繋がることもある

どの団体でも組まれることが多くなったこの3WAYマッチ。確かに面白い試合形式ではありますが、このルールはゲーム性が高くプロレスならではの自己感情表現が伝えにくくなるので、おそらく今後も主軸になることはないでしょう。
きっと「これもまたプロレス」というひとつの側面、切り口として存在していくものと思われます。
ほかの競技では可能なのか
さて、プロレス以外でこのような「多人数が同時に闘う競技」ってあるのでしょうか。記録や順位を目指す陸上競技などは別として。
せっかくなので、3WAYマッチをほかの競技でやるとしたらどうなる?面白いの?を考えてみました。
相撲やボクシングや柔道などの格闘技系は、観客に伝わらない場所での攻防でごちゃごちゃになってしまったり、ひとりの選手を複数で攻めるという裏の政治的な連携も見えてしまいそうです。勝敗も、負けた選手は明確ですが誰の技で勝ったのかという勝者を判断しにくい部分が出てきそうです。
サッカーやラグビーやバスケットボールなどの球技系は、ひとつのボールを複数チームが取り合うことでダイナミックさや斬新な戦略が生まれそうですが、ゴールが幾つもあることでその配置をどうするか、ボールの数は増やすべきか、フィールドの拡大や変更などが必要で、それはもう別競技です。
唯一、手応えがあったのは、意外と剣道でした。勝敗の明確さは通常のルールと変わらないですし、相手が別の相手を攻めようとした瞬間を狙って技を決めるという心理的な駆け引きが1vs1の形式よりも深くなるのではないでしょうか。ただ、守りにくいということは攻めにくくもあり、膠着状態が長くなる可能性が高いです。

3WAYマッチはプロレスならでは
と、あらゆる競技での3WAYマッチ妄想をしてみたのですが、結局、どれも成立しないんですよね。
3WAYマッチというのはやっぱり特殊かつ異質で、観客に見せる競技としてこのルールが成立するのはプロレス以外ないんだな、という結論になったのです。
どんな特殊な状況でも対応できるプロレスの振り幅であり多様化ってのは素晴らしい!と自画自賛的に感服しちゃうのです。
今回のまとめ。
プロレスじゃないと成立しない3WAY
敵ばかりの3WAY
となると世の中って3WAY

プロレスの基本はシングルマッチでありタッグマッチ。これは揺るぎないものです。3WAYマッチはあくまで特殊なルール、ひとつのアクセントとして存在するものです。
そして、これまで3WAYマッチは様々な団体で数えきれないほど組まれていますが、正直、この形式でのベストマッチは出にくいと思います。逆を言えばこの先最高傑作が生まれる可能性もあります。なので、予測不能な3WAYマッチも含め、新しいことへのチャレンジ精神は変わらず追い求めてほしいです。
プロレスの良いところ、それは「曖昧さ」なんですから。
…と考えていたら、お総菜売り場の半額弁当が誰かの手に渡っていました。それどころか、閉店時間になっていました。敗者として手ぶらの腹ペコで帰ります。
では、またここで。