創作童話『プーの町はどこ?』 の話

コラム

ここは“エンタメ”と呼ばれている世界。
ここにいるものみんな、さまざまなスタイルで毎日を楽しんだり楽しませたりしています。
そんなにぎやかで活気あふれる世界、エンタメ。ここで生活をしているひとりの子がいます。
名前は、プー・ローレス
プーは無邪気で少しやんちゃなところもありますが、周りを盛り上げたり、サービスをしたりと、みんなを楽しませることが大好きです。

町探しの旅へ

そんなプーもそろそろ大人になる頃です。
ある日、プーのおかあさんはこう言いました。
「いいかい、プー。大人になると、ひとりでどこかの町に住むのよ。この世界ではその町のことを“ジャンル”って言うの。あなたもそろそろ、どこのジャンルに住むか準備しないとね」
元気で活発なプーはおかあさんの話を聞いて、自分にぴったりのジャンルを決めるため、さっそく旅に出ることにしました。

ひとつめの町

町へ行くのははじめてですが、プーは怖がることもなく、元気いっぱいにジャンルを探します。
しばらく歩いていると、最初の町が見えてきました。
「スポーツ」という町です。
町に着いたプーは、町役場の「ジャンル入所課」というところへ行き、この町に住めるかどうかを聞いてみることにしました。
役所の職員さんがこう問いかけてきます。
「道具は使う?棒とか球とか」
プーはこう答えます。
「凶器として使う子もいるけど、道具は使わないよ」
「ルールはちゃんとあるの?」
「あるよ、3カウントフォールとか、ギブアップとか、反則はあいまいなんだけど」
「ライセンスは?コミッショナーは?規約は?」
「ライ…?コ、コミ…?えっと、なんか難しい資格とか難しい言葉のようなものは、ありません」
「そうかー。じゃあこの町には入れないよ」

プーはがっかりしました。残念だけど、ほかの町にも行ってみることにします。

ふたつめの町

しばらく歩いていると、2つめの町が見えてきました。
「演劇」という町です。
町に着いたプーは町役場に行って、この町に住めるかどうかを同じように聞いてみます。
「台本とか演出とか、しっかりあるの?」
「ないよ!あるわけないよ!そもそも段取りとか、覚えられるわけないし」
「ちゃんと稽古して本番やってる?」
「え?練習じゃなくて稽古?本番って試合のこと?練習やトレーニングはたくさんしてるよ!」
「同じ公演を何回も何十回も毎日やるんだけど、体力は大丈夫?」
「体力はへっちゃらだけど、同じことばかりやってたら見てる人もやってる方も退屈しちゃうし、いつも違うことをやりたいなあ」
「そうかー。じゃあこの町には入れないよ」

プーはまたがっかりしました。残念だけど、次の町に行ってみることにします。

みっつめの町

しばらく歩いていると、3つめの町が見えてきました。
「コンサート」という町です。
「歌を唄うけど、大丈夫?」
「歌!みんなを楽しませるために唄うときもあるよ!入場のときとか、試合後とか。たまに試合中でも唄うよ!」
「ダンスを踊るけど、大丈夫?」
「ダンス!踊るときもあるよ!入場のときとか、試合後とか。たまに試合中でも踊るよ!」
「終演後のアンコールもあるけど、大丈夫?」
「それは…、メインの試合で最高に盛り上げてみんなを満足させておしまいにするから、そのあともう1試合ってのはやらないよ」
「そうかー。じゃあこの町には入れないよ」

プーはまたまたがっかりしました。残念だけど、別の町に行ってみることにします。

よっつめの町

しばらく歩いていると、4つめの町が見えてきました。
「アート」という町です。
「芸術性は高い?」
「んー、芸術とかよくわかんないけど、試合を“作品”と呼ぶこともあるよ」
「現代における社会問題や社会情勢を反映して世界への問題提起や批判を感じさせるものを表現できる?」
「んー、難しいことよくわかんないけど、誰が見てもスゴい!って言ってもらえるのが嬉しいなあ」
「見ているみんなは声を出さず、おとなしく見られる?」
「ん-、静かに見られたら逆にこっちが困っちゃう。たくさんの応援とか歓声とか拍手とかしてもらうためにやってるから」
「そうかー。じゃあこの町には入れないよ」

プーはまたまたまたがっかりしました。残念だけど、別の町に行ってみることにします。

いつつめの町

しばらく歩いていると、5つめ?6つめ?の町が見えてきました。
「総合格闘技」という町です。
「うちらは本気の闘い、リアルファイトなんよ。そのための練習とか肉体改造とかしてっから、片手間で勝てるほど楽じゃねぇんだわ。ケンカ強くても簡単にこてんぱんにしちゃうしさ、お前みたいな小僧はきっちいよ。やれんの?だって弱えじゃん、だいたいさ、技も避けずに受けたりわざと急所を外したりインチ…」
「うるせえな!こっちからお断りだ!」

プーはカチンときたあとにがっかりしました。残念だけど、別の町に行ってみることにします。

むっつめの町

しばらく歩いていると、いくつめか忘れてしまったけど町が見えてきました。
「お笑い」という町です。
「まいど!うちらみたいにおもろいことできるんかいなー」
「うん、みんな喜んで見てくれて…」
「そんなん言うてますけど!違うかー!」
「…あ、はい」
「なんでやねん!ちゃんとつっこめや!じゃあ今日は名前だけでも覚えていってください。向かって右側のメガネが横綱、左側の太ってるのが近眼、て言うんですけど。って、わかりにくっ!わかりにくっ!」
「…笑わせるのことは素晴らしいけど、感動とか興奮もさせたいなあ…、やめさせてもらうわ…」

プーはたくさんがっかりして、自分がどこの町に入ればよいのかわからなくなってしまいました。

おじいさんの言葉

すっかり町探しの旅に疲れてしまい、ベンチに座ってひと休みするプー。
このままだとどこの町にも住めないや、町になじむのは無理なのかな…と気を落としてしょんぼりしていると、ひとりの口ひげのあるおじいさんが近付いてきました。
がっくりと疲れ果ててしまったプーを見つめて
「どうしてそんなにしょげているんだい?」
と聞いてくるおじいさん。
プーは自分が住む町を探していることと、これまで訪ねた町のことをおじいさんに話しました。
すると、おじいさんはこう言うのです。
「今ある町に住むことを考えなければいいんじゃ。どこかに自分で家を建ててそこで生活すれば、そこが中心となってやがて大きな町になる。ジャンルはそうやって増えていくんじゃよ」
そう言い残し、笑顔で去っていくおじいさん。
その肩には、赤いズボンを履いたネズミが座っていて、白い手袋でこちらに手を振っていました。

自分の町

この言葉を聞いて、プーの悩みは一気に消えていったのです。
どのジャンルにも当てはまらないのなら、自分がジャンルになればいいんだ
元気が出たプーはおうちに戻り、その近くに自分にしか作れない家を建てて生活を始めました。
それは、プーにしか作れない、プーの魅力がたくさん詰まった家です。

あれから数十年。プーの家の周りには同じ感性を持ったものがたくさん住み出して、今ではすっかりひとつの町、ジャンルになっていました。
住み心地が良くて、誰もが満足できて、もっと大きな町になるように、プー・ローレスは今日もみんなを楽しませています。


お し ま い ~

あとがき

今回のまとめ

プロレスはどのジャンルにも属さない
プロレスという名のエンターテインメント

では、またここで。

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