海外生活への憧れや、語学力やスキル向上のため「留学してきます!」と諸外国へ渡る人は少なくないですが、もしも「海外武者修行をしてきます!」と宣言されたら、その耳慣れない言葉に「…良かったら話聞くで」となるはずです。武者修行経験者って、周りにそういないですし。
ですが、それを節目節目で頻繁に目にする耳にするのがプロレス。「無期限海外武者修行」なんて九文字熟語を見ただけでよだれが出てしまうのがプロレスファン。
海外武者修行の歴史は日本のプロレス界創成期からあるほど古く、もしかしたら、一番変化していない文化=いつの時代も必要であるシステムなのかもしれません。
では、海外武者修行をするとどうなるのか。
簡単に言うと「成長する」のです。
いや、「人が変わったかのように成長する」とまで言っておきましょう。
わかりやすくいえば「派手なステップアップ」です。
なぜ、海外での修業期間を経ると派手にレベルアップするのか。今回はその理由と解明、現状など、海外武者修行に関するお話です。
プロレスラーの成長は蝶のよう
まず、プロレスラーの成長プロセスを蝶で喩えてみます。
一番はじめ。それぞれの団体に入門すること、いわゆる卵が産まれます。
殻の中で栄養を受け、ようやく孵化し幼虫に。道場という名の殻の中で練習という名の栄養をたくさん摂取して、デビューです。
あらゆる経験や環境で堅実に育ち、自立前の準備段階がさなぎ、ここが今回のテーマの海外武者修行にあたります。
やがて成虫となり、鮮やかで大きな羽を広げて飛び立つ。これが凱旋帰国。ようやく、蝶、すなわち一人前のプロレスラーの誕生です。
途中のさなぎ(海外武者修行)時代は一番動きもなく、色も地味。現状どう育っているかわからない面白味を感じにくい時期ですが、ここでの溜めが成虫になってからの大きな飛躍に繋がるので、たいへん重要な期間なのです。
大きく美しい羽を持つ蝶でも、見た目が不格好な幼虫時代や、動くことなくパワーを蓄えるだけのさなぎ時代があるんですね。
海外武者修行の重要性が伝わりましたでしょうか。
海外武者修行で跳ねる要因
では、なぜ海外武者修行をすると派手にステップアップできるのか。
その要因を考えてみました。
自立
それまでひとりの若手でしかなかった選手が、海外で生活をすることである意味はしごを外されます。
海外では自給自足。食べるものも住居も全部自分で行わなければなりません。現地で試合が組まれるかどうかも自身の能力にかかっています。
この完全な独り歩きにより自分の身を自分で作り守る、という責任感が身につきます。
解放
そして、規則の多い寮生活や、道場での雑用、先輩選手の付き人稼業など、自分以外のことに費やす時間が多かった環境から脱することで、時間をすべてプロレスに充てることができます。
縛りが多かった若手時代があったからこそ、その贅沢さをさらに強く感じることができるのでしょう。
もちろん、プロレス以外のカルチャーや人付き合いなども大事ですね。ゆくゆくはキャリアの中で少なからずそれが活きていくのでしょうし。プロレスのこと、それ以外のことのバランスは選手それぞれといったところですが。
自信
海外での試合ですが、諸外国において日本人選手は基本的にヒール扱いになるため、パフォーマンスの幅が広がります。
海外遠征中の選手のエピソードで「観客から本気で殺されそうになった」というのを聞きます。それくらいヒートを買うためにはどうしたら良いか、を考えて実行し手応えを得る。これが自己表現の自信に繋がります。
真面目だった若手選手が武者修行から帰国後に生意気な人格に豹変していたり大口を叩くようになるのは、そこで得た自信の表れ。むしろ変化がなければ逆におかしい、とすら言えます。
技術
また、海外特有の動きや技の仕掛け方、防御の仕方など、日本では学べない技術をあらゆるタイプの選手から吸収できるというのも大きいです。
海外の団体は日本ではありえないほど入れ替わりが激しく、様々な国の選手が集ってきます。教わってきたことも文化も選手それぞれ異なります。
そこで選手それぞれが得たいスキルを見て、戦って、話して、習って、学びを交換し合うのも海外でしかできないことです。
幻想
一方で、観客やファン側の視点で考えると、しばらく試合を見せられない不在の時期が続くので、期待や幻想を膨らませる絶好のチャンスにもなります。
凱旋帰国時に大きく風貌を変えてくるのは、試合内容も大事だけど、見た目がまず大事だからです。第一印象でインパクトを、ですね。
帰国の挨拶で「帰ってきたぞー!おい、コラ!」とアピールする風貌がただのコンビニ帰りにしか見えなかったら、期待も幻想もそこで全部吹っ飛びますからね。身なりは大事です。
海外武者修行の現状と理想
選手、団体、ファン、すべてにメリットしかないような海外武者修行ですが、プロレスラーは全員これを経験できるのかといえばそうではありません。
現在も実施できるのは海外団体とパイプを持ち歴史も厚い、いわゆるメジャー団体のみ。むしろ海外武者修行を経験できる選手は限られた団体の限られた選手だけなのです。
これ以外の団体所属選手やフリー選手の場合、選手自身計画し団体に申し入れる形で海外へ遠征、各々のルートで経験を積んでくるパターンが主です。海外での経験値や帰国後のオファー増加も見込めるので、良いパターンです。
ただし、ある程度のキャリアや実力がないと海外では試合が組まれませんし、繋がりがないと実現がなかなか難しい側面もあります。
また、昨年からは、海外ではなく国内の団体間での武者修行も話題になりました。若手選手の出向みたいなものです。
これまでにないシステムで、受け入れられるか、成果は出るのか、移籍になるのではという不安がありましたが、結果は大成功。両団体のファンが満足する武者修行になりました。
これは画期的なことで、従来の「ファンの目に届かない期間」は国内なのでありませんが、おそらく今後、このケースが増えてくる気がします。
これらのケースに倣わない選手は国内の活動でのみステップアップをしていきます。あらゆる方法や策を用いて経験を積み、試行錯誤を重ね、自己表現に長けた選手へと変貌していくのです。
近頃の選手が頻繁にキャラを変化させたり、立ち位置が変わりやすいのは、さまざまな表現を国内だけで試しているからでしょう。
蝶になる姿に胸を膨らませる
海外武者修行をする選手、しない選手。それぞれ美しく立派な蝶になるまでの過程が「突然!」と「いつの間にか!」の違いだけで、ファンの好みも選手のルートもそれぞれ。海外武者修行もそれ以外も、美しく立派な蝶になるというプロレスラーの理想像は同じです。
ただ、海外武者修行は若手選手が通る最適解ルートであることは間違いなく、昔も今も時代に左右されない育成の重要な期間です。
これはファンにとっても重要で、凱旋帰国時の高揚感、キャラお披露目時の驚愕さ、新しい技や磨かれた肉体への賛美。蝶になった選手を見て感慨深くなれるのはプロレスならではの不思議な感覚。
このシステムだけは未来永劫続いてほしいですね。
現在、海外武者修行中の選手。近い将来、武者修行を経験する選手。
さなぎは成虫への変革期。いつか、その選手たちが鮮やかで大きな羽を広げて、立派な蝶になった姿を見せてくれる日が楽しみです。私たちはいつも期待感に包まれています。
今回のまとめ。
海外から帰国すると不思議とたくましくなってる気がするのは
自国での暮らしに比べ自分の身は自分で守る感が強くなるから
プロレスだったら、なおさら!
もし私が海外武者修行に行くとしたら、そうだなぁ、オーストラリアがいいです。
コアラを抱えて体を鍛えます。はい、コアラを抱っこしたいです。かわいいコアラを抱っこして写真を撮りたいです!
海外武者修行をしてきます!!
「…良かったら話聞くで」
では、またここで。