なんで振られて戻ってくる?の話

コラム

意識していなくても危なければ避ける。痛いところをかばう。人間、いや、生きものには条件反射が兼ね備えられています。
さて、興味の薄い人たちが口を揃えて言うプロレスの疑問に「ロープに振られたらちゃんと戻ってくるのはなんで?」というのがあります。
リングに張られた3本ロープの間を走って繰り広げられる攻防、通称「ロープワーク」。これはプロレスという文化が日本にやってきた頃には存在していて、先ほどの疑問も、もはや擦られ過ぎて聞くのも野暮レベルのプロレスの不思議のひとつです。
この素朴な疑問であり大きな難問
私は選手でも経験者でもないただのファンですが、今回はその疑問に対し、ふんわりしたものでも技術的な構造でもない、観客として長年見続けた者がたどり着いた観客視点の、推考ながらも的確で簡潔な回答を示したいと思います。

ロープワークは必要なのか

まず第一に、ロープワークは条件反射ではありません。日々の練習で身につけた必要不可欠な基本的動作です。
ただ、相手の技を受けるのがプロレスという競技の特性ではありますが、試合に勝つという大前提がある以上、ロープに振られて易々と戻ってくるのは相手の思うつぼ。
もちろん、その反動を利用して相手へカウンター攻撃を浴びせることもできますが、戻らないという選択が一番得策だといえます。
そして、相手に振られるにせよリバウンドを狙うにせよ、ダッシュに近い全速力で走ることが必要になるので、ロープワークだけでスタミナが消費してしまいます。
ルールや選手によっては、ロープワークをほぼ(まったく)駆使しないスタイルも存在します。
そうです。試合中の攻防でロープワークは必要不可欠ではないのです。
ではなぜ、プロレスラーはロープに振られたら戻ってくるのか。

その理由。私がたどり着いた答え
それは「お客さんがいるから」です。

プロレスは勝負論ありき

どんな試合形式であっても3カウントやギブアップなどで相手に勝つことが戦いの基本です。
プロレスがショーではなく競技なのは、そこに必ず勝敗があること、相手に勝ちたいと負けたくないという勝負論があるからなんです。
フィギュアスケートは技術点と演技構成点で得点を競い順位(勝敗)を決める「競技」ですが、プロフィギュアスケーターが演じるアイスショーに点数や順位は存在しません。それと同じことです。
その勝負論はただ相手に勝つだけ、倒すだけではないのもプロレスの特徴であり刺激です。
身体能力や自己表現をぶつけ合って観客を盛り上げ、自分と相手のどちらが印象に残るか。自分の試合とほかの試合のどちらが面白かったのか。対戦相手だけでなくお客さんとの勝負もその中に含まれます。
お客さんは、プロレスに「最強」以上の「最高」を求めて見に来ています。
観客とのジャッジに明確な勝敗基準はありませんが、確実に言えるのは「強かった」だけがポイントではありません。「良い選手だった」「興奮する試合だった」が大事な部分で、さらに「また見たい」と思わせたらプロレスラーの勝ちでしょう。
そして、その根源に「身体能力や自己表現力をどう駆使して相手や試合に勝つか」の駆け引きが存在するからプロレスは面白いのです。

「最高」を作り出すために

ロープに振られたのに戻ってこない。もしくは、あさっての方向へ走っていく。そもそも、振られることすら拒む。
プロレスという競技で勝負している場にこんな選手がいたら、この時点で「負け」です。
見る側にとってもこんな身勝手な選手は面白いわけがなく興味すら湧きませんよね。
お客さんはプロレスを楽しむためにチケットを買い、会場へ足を運び、時間とお金を消費して見ています。
選手もそれを理解しているので、お客さんが満足できる勝負が見せられるよう心がけて戦います。
どちらも「最高」の空間を見るために。見せるために。
試合だけでありません。
プロレスラーは人間離れした攻撃を繰り出したり、どんな強烈な技にも耐え続けられるよう、日々トレーニングをして体を鍛え上げています。また、ほかのジャンルやトレンドもチェックして感性のアンテナを張り巡らせ、リング上の動きや言葉に活かしたりもします。
観客もネットや雑誌などで団体や選手の動向や発言を追って、次の観戦を少しでも楽しむために情報を集めます。
試合だけでなくこれらも「最高」につながる糧です。すべては「最高」のために。

なんで戻ってくるの?問題、解決!

今回のまとめ。

ロープに振られたらなぜ戻ってくるのか。
それは、プロレスが
「最強」だけではなく

「最高」を競い合う勝負だから。

プロレスは、ショーではなく競技です。
そして、極上のエンターテインメントです。
プロという名のついたものはすべてそうあるべきだと思います。

ちなみに。
ボクシングのリングはロープが4本なのに、プロレスは3本なのはどうして?
という疑問ですが、
元々ボクシングも3本だったけど、アクシデント時の選手の安全を考えて4本になったんだよ。プロレスが減らしたんじゃないよ。
という推考ではない明確な回答を示しておきます。


では、またここで。

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