俗に言う働き方改革の影響もあってか、フリーランスとして働く人が年々増加しているそうです。
自分で事業を営む個人事業主の中で「従業員を雇用していない・実店舗を持たない・農家や漁業者でない」のを一般的にフリーランスと分類するようで、日本でフリーランスを本業にしてる人の数は、2,093,700人(副業のみは480,300人)という調査結果が出ています(2023年/総務省統計局調べ)。
フリーランスは定義が曖昧なので調査媒体によりその数が変わり不明確ですが、どの調査でもコロナ禍の2020年以降は急激に増えているとのこと。
なぜ多くの人がフリーランスを選ぶのか。安定よりもワークライフバランスを優先する現代社会においての雇用とは。
…なんて、労働問題にメスを入れたいわけではないんですよ。プロレスの話をさせてもらいますね。
プロレス界でも昔から、団体に所属する選手とフリーで活動する選手が半々ぐらいの割合で存在します。
では、所属とフリー、どちらがプロレスラーとして活動しやすいか、注目されるのか。どちらがベストなのか。今回はそんなお話です。
プロレスラーは個人事業主
その前に。
プロレスラーは団体の社員でなくほぼ個人事業主です。
選手はあくまで個人でその団体と契約するというもので、プロ野球選手やタレントのように、必要がなければ契約更新できなかったり、問題を起こせば解雇されたり、ほかの団体からヘッドハンティングがあったりします。
なのでここでは「所属=その団体専属の年間契約選手」「フリー=団体やプロダクションに属さず自らオファーを受け試合をする選手」と定義させていただきます。
所属とフリーの利点と欠点
まずはそれぞれのメリットとデメリットを挙げていきます。
所属選手のメリット・デメリット
プロレス界の主軸である団体所属選手のメリットですが、まず第一に安定した雇用契約や怪我や入院などの費用負担は大きいはずです。契約期間は一定の収入が保障されるので、安心して試合やトレーニングができます。団体によってはセカンドキャリアのケアもしてくれます。
観客側の視点からだと、その選手に明確な肩書が付き団体を背負うことで、選手の成長や物語を所属団体の歴史とともに見届けられるため感情移入がしやすい、というのは大きなメリットです。
一方でデメリットですが、所属団体以外の相手と簡単に対戦できないというのがあります。意中の選手がいても、契約上その期間は自分の団体を盛り上げることが責務ですから、そう易々と他団体の選手名を口にしたりできません。他団体に乱入だなんて言語道断。そこはどうしても大人のルール、外へ向かうには所属団体の許可が必要です。
フリー選手のメリット・デメリット
フリーランスの選手の最大のメリットは先ほどとは逆で、自由に団体間を行き来できることでしょう。
いくつもの団体に同時に参戦できますし、あらゆるタイプあらゆるスタイルの選手と対戦することでファンへの知名度も大きくなり、さらにその実績を通行手形に別の団体へ移り行くことが可能です。そして、試合数やグッズ販売数が収入と比例するので、人気が出れば出るほどそれだけの対価に直結します。
ただ、後ろ盾がないので、不安定なことが大きなデメリットでもあります。
人気商売なので選手の価値や集客能力がなければオファーは少なくなりますし、呼ばれても希望する試合ができないことも。オファーをもらうべく業界内の繋がりも重要です。
もし怪我で欠場した際は試合ができず無収入の時期が続いてしまいます。
おおまかに考えれば、メリットとデメリットは一般社会の会社員とフリーランスの形態と同じですね。
選手とファンにとってベストな環境は
それぞれ利点も欠点もありますが、現代のプロレス界においては、ファンに多く見て覚えてもらえる、注目される、選手にとってもプロレスに打ち込めるベストな環境、それは所属選手だと思います。
確かに自由にいくつもの団体に参戦でき新鮮さを常に作ることができるのはフリー選手です。ファンにとって刺激のある夢の試合を実現できるのはフリーだからこその仕事です。
ただし、それは大物選手になった場合のみ。まだ名前もキャラクターも広く知れ渡っていない中堅までの選手だと夢のカードまで手が届く存在ではないので、オファーを受けて試合をしてギャラをもらう、これだけで精一杯かもしれません。
所属選手ならばファン側に「所属団体を観戦すれば自分が見られる」という安心感も与えられます。
フリー選手の場合は次が必ずあるわけではない稼業ですし、決して潤ってろとは言えないプロレス団体では大物フリー選手を簡単に招聘できないという現状もあります。
また、団体間の交流が昔に比べて自由になってきている近年は、所属している選手でもチャンスと信頼があればスピンオフ的な自主興行を開催できる機会がかなり増えてきました。
別団体所属選手による夢の対決の実現が叶う時代なので、団体所属のデメリット部分はそこで解消されます。逆を言えば、フリーの選手のメリットの強みが薄れてしまいます。
フリー選手はどうなるのか
そして、今のファンは個別の団体だけを追う層がメインなので、フリー選手によるそのときだけの刺激的な試合(点)より、所属選手によるドラマが把握できるストーリー(線)を見たいのだと思います。
今から20年ほど前は大物フリー選手が団体の軸になっていた「フリー全盛期」がありました。ですがその後、その策を取った団体の勢いは落ちていく一方でした。自団体で選手を育ててなかった結果です。
その教訓もあってか、各団体はできる限りフリー選手に頼らず、所属選手を観客が集められるスターになるまで大切に育て、所属選手だけでも大きな会場で興行ができる、そんな理想的な団体形に近付こうと努めています。
となると、フリー選手はどうすべきでしょうか…?
現代こそ求めたい強烈なフリー選手
一般社会同様、プロレス界でも団体に所属しないフリーの選手が年々増加しています。
フリーでも大成功したり夢を叶えられる可能性が見えてきたことも要因のひとつですが、プロレス以外の仕事をしているから、という選手が増えているのも現状です。
フリーとしてプロレスを続ける覚悟は、ひと昔前と比べるとパワーダウンしているのかもしれません。
ですが、そんな現代でも、フリーとして地道に活動し、多くの団体から多くのオファーを受け、各団体のストーリーに絡み、ときには自主興行を開催する。それらの実績を積み重ねて、自分の身だけじゃなくプロレスを背負う覚悟を持ったフリー選手がいるのも確かです。
本気でプロレスを愛しているんだなと思います。素直に凄いことだと感服します。
そして、そういった価値のあるフリー選手がこれまで関わってこなかった団体と絡み、まだ実現していないカードが見られることはファンの希望であり夢なのです。
それまでの熱意を全フリー選手に持ってほしい、とまでは思いませんが、せっかくの自由ですから、フリーらしい多方向からの攻め方で選手個々の価値を高めるファイトをしてほしいです。
団体所属選手が重宝される時代ではありますが、フリー選手の価値が下がっていないのは、そういうプロレスを愛して覚悟も背負った選手がいることで立証されています。
あらゆる団体に出場し、スパイス以上の起爆剤としてその団体に化学反応を起こさせる、各団体が無視できないほどの刺激的なフリー選手が出てくることを望んでいます。
もちろん、そんなフリー選手を団体活性化のために巧みに起用できる地盤がしっかりした団体作りも。
プロレスって、そもそも自由な戦いの場、なんですから!
自由と不自由が絡む自由なプロレス
今回のまとめ。
安定は不自由
不安定は自由
とはいっても、プロレスは自由な戦いの場
プロレスラーという職業を選択した選手の皆さんには、団体所属でもフリーでも徹底的にプロレスを愛して、のめりこんで、自分が楽しんで、人を楽しませてほしいです。好きなやり方で。プロレスは自由なので!
そして、私たちはプロレスを徹底的に楽しみます。好きな見方で。プロレスは自由なので!
ただ、自由を履き違えると痛い目に遭いますからね。自由でもルールはありますから。
もし、プロレス会場で節度をわきまえない人たちを見たら「こうなってはいけないぞ!」と我が身を振り返り、改めるべきところは改めましょう。
はい。「人のフリー見て 我がフリー直せ」です。
では、またここで。