プロレスラーは入場が8割、って本当?の話

コラム

しゃれた雰囲気の居酒屋、コース料理を出すレストラン、品のある和食料理店、このようなお店での食事には、メイン料理の前に小鉢やスープなどの前菜や小出し(お通し)が付いてきます。
ふた口ほどで食べられる簡単な量ですが、前菜には食欲アップの作用がありますし、舌で味わう名刺のようにそのお店の第一印象にもつながります。そして、それが絶品ならばメイン料理への期待が膨らむ効果もあって美味しい料理がさらに美味しく感じられるのです。
主役ではなくてもとても重要な前菜ですが、すべての料理を食べ終えたあと「一番美味しかったのは前菜」と言われたらお店の人は複雑でしょう。だからといって、前菜として3日煮込んだビーフカレーを出したら当然ですがそれで満腹になってしまいます。
プロレスで例えると、試合がメイン料理、選手の入場シーンが前菜といったところでしょうか。試合後のマイク締めはデザートですね。
そんな選手の入場シーン。前菜という位置付けかと思いきや、何名かのベテラン選手は揃って「プロレスラーは、入場8割、試合が2割」と言うのです。
前菜で8割の印象を残せば、メイン料理は2割の美味しさで良い?最初から試合は2割でもいいってこと?
そんな疑問が浮かぶ人もいるかと思います。
今回はこの「入場8割、試合が2割」説について考えてみましょう、というお話です。

入場8割、試合が2割。の理由

その理由としてベテラン選手はインタビューでこう述べてました。
「お客さんは選手が入場した瞬間、ゲートの奥の閉ざされた場所から選手が出てくる瞬間を見る。その瞬間にお客さんを掴まなきゃいけない
「入場でお客さんの心を掴めばリング上で何をしても許される。逆に言えば、入場の特色がない選手は印象に残らない
プロレスラーはキャラクタービジネス。決めポーズ・決めゼリフ・そして決め入場曲、この3本が認知されれば間違いなくやっていける」
まったくもってその通り。完全に同意です。
私たち観客も、入場だけで心を鷲掴みにする選手が出てきたとき、期待感が一気に跳ね上がります。
選手にとっても誰にも邪魔されず全員が注目してくれる入場は特別で大事な時間、最初の見せ場です。

現代のプロレスでの選手入場

昭和までのプロレスの選手入場シーンは飾り気がなく、ただ選手が控室からリングへ移動するだけのものでした。
照明やスモークなどの演出はもちろんありません。
入場曲に合わせて鳴る手拍子や観客からの大きなコール、選手に触れるべく花道に群がるファン。それらが演出となり、試合や選手への期待感を作っていました。
現代ではしっかりとした入場用通路(花道)と入場ゲートが用意され、入場曲だけでなくビジョンやムービングライトなどを使い、エンターテインメント性を高め華やかになっています。
現時点で国内最大の使用会場である東京ドーム大会では、2階席最上段から見たくなるほどの派手な演出で入場を盛り上げます。各試合の各選手の入場に時間も割きますし、そのシーンを生で見ることが東京ドーム大会の醍醐味です。
センター側からリングまで続く長い花道が名物でもあり、現役選手なら誰もが「自分の入場曲が流れる中で東京ドームの長い花道を歩きたい」という願望があるはず。
さらにアメリカの大手団体(WWE・AEW)の年間最大のビッグマッチでは日本では実現できないような壮大で大掛かりな特殊効果が見られます。花火が打ち上がる中で入場する選手の恍惚感は計り知れません。

ほかの競技やエンタメでの入場演出

プロレスだけでなくほかの競技にも入場時の演出はあります。
プロ野球はホーム球団の選手が打席に入るとき大きくテーマ曲が流れたり派手な映像がビジョンに映ります。
サッカーやラグビーでは試合開始前にスタジアムの入場ゲートから選手が並んで入ってきます。
直接的な入場ではないですが、大相撲では土俵入りがそれでしょうか。
コンサートではoverture、映画では映画泥棒も「気持ちを高める本編開始前の演出」になりますね。
どんなジャンルにもメイン料理を盛り上げる前菜があるのです。

入場は大事な“つかみ”

さて、先の「入場8割、試合が2割」ですが、入場でおなかいっぱいになって試合が心に入ってこなかった、入場で全部見せ場が終わっていた、ということがあっては本末転倒です。
前菜はとても美味しかったけどメイン料理はそうでもなかった、というお店へ再訪する可能性はほぼないでしょう。
プロレスの入場での盛り上がりは前菜同様、その選手だけでなく、このあとの試合への期待も込められています。入場が盛り上がると選手も観客も試合への意気が上がり名勝負が生まれやすい環境が出来上がります。
入場と試合は別物ではありません。名勝負は入場シーンも含めて名勝負なのです。逆を言えば、入場が盛り上がらなければ名勝負は生まれない、と言っても良いでしょう。「相乗効果」です。
名勝負や好試合のためには、試合前の掴み部分が重要。
ファーストインパクトでの印象付けだけは怠るなよ」ということです。

入場に特色ある選手は良い選手

また、俗に言う「名選手」であればあるほど、この入場シーンの使い方が長けています。
選手にとって入場のシーンはひとりで行う最初の自己表現。
試合中の技や受け身以外の部分、入場時の所作や表情、その動作のすべてで自分がどんな広さの会場でも観客からどう見えているか、どこをどう見せたら盛り上がるか。それらを把握し思い通りに表現することができる。そんな俯瞰的視点を持ち合わせているのが良い選手の条件のひとつです。ステージパフォーマンスが優れたアーティストやアイドルはこれができているから何万人という観客をひとりで一度に魅了できるのでしょう。
入場での表情や動きは、自然と出てきたものでも作られたものでも、観客の想像を超えてくればインパクトを残せます。インパクトのある入場=試合にも注目が集まる=存在感が印象に残る=名選手、という式です。
また、入場はその選手の自己紹介なので、なんでこんなことするの?くらいの突拍子もない変わったスタイルだとはじめてプロレスを見る人にも覚えてもらいやすいです。
そして、なかなか人気が出ない伸び悩みの時期でも、好評不評関わらず徹底して自分の入場スタイルを貫き続けるのが大事だと思います。いつか試合内容や支持が入場の表現に追いついたとき、簡単には作り出せない独自の空気が生まれます。
前菜が美味い店、独特な店、こだわる店は名店。ということですね。

何事も最初が肝心

ここまで書いていれば理解できたと思いますが、「入場8割、試合が2割」は「入場シーンは全体の8割を占めるくらい重要な場。そのあとが2割でも何とかなる」という意味で「最初から試合は2割でいいや」ではないのです。
入場は大事。試合も大事。面白かった!を残すのが大事。ということです。

本日のまとめ。

入場が8割。
試合8割。
試合後8割。
観戦後の余韻8割。
選手のかっこ良さ8割。
大会全体でボーナスポイント10割。
合計すると…50割。500%!
すごい!プロレスって、500%のエンターテインメント!

入場は大事
言い換えると、最初が肝心
さらに言い換えると、リカバリーはたいへん
という言葉だと思えば、私たちの生活や悩み事への取り組み方も変わってくるのではないでしょうか。

日常における入場プレイ

朝の通勤時でも近所のスーパーへ買い物に行くときでもいいです。
ぜひ、自分のテーマ曲を決めて、外出時にそれをイヤホンで聞きながら自分が入場している姿をイメージして勇ましく歩いてみてください。
それだけで、何気ない日常でも気持ちが高まりますよ。
周囲の人を煽る派手なアピールの動作だけ我慢すれば不審者にもなりません。お試しあれ。


では、またここで。

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