前回までは新台湾プロレス初現地観戦のプロセスと大会や試合の雑感でした。
その観戦翌日の9月1日、台北市から路線バスで30分ほどの新荘体育場野球場で台湾プロ野球の公式戦が行われました。
はい。今回のもうひとつの目的「台湾プロ野球の公式戦を現地の球場で観戦する」です。
ずっと気になっていた台湾プロ野球。贔屓球団はないですが一度は球場の雰囲気を味わいたい、というプロレス観戦と同じ理由です。
今回は台湾プロ野球を観戦しながら考えていたプロレスのことについてのお話です。
台湾プロ野球を見に行こう
今回観戦したカードは富邦ガーディアンズvs.中信兄弟。富邦のホームゲームです。
ちなみに、台湾プロ野球の正式名称は「中華職業棒球大聯盟」と表記し「CPBL」と略されます。今年から球団がひとつ増え全6球団になったことや各球団の本拠地やリーグ形式などのCPBL事情は割愛しますのでネットで調べてみてください。
チケットは当日球場でも購入できますが、試合の前日までにコンビニのチケット発券サービスを使い購入すれば、前売り料金でお安く買えますし、残席状況から希望の座席を指定して購入もできます。私はファミマのFamiポートでGoogleレンズを活用し画面の文字を翻訳しつつ操作して購入できました。
チケット代金は新荘野球場の試合でNT$600~250(平日の試合はNT$400~200)。日本と比べるとかなり価格が安いです。
当日、球場へ移動し入場。場内には飲食やグッズの売店も多く見られます。ビジターの中信兄弟応援席は三塁側外野席のみ、内野席はホームである富邦ガーディアンズのファンで賑わっています(当日入場者数は9,029人だったそうです)。観客の皆さんは早くも応援ムード。17時05分、試合開始です。
試合、そして今回のテーマ
試合は小刻みに点を取られていた中盤の5回、一気呵成な攻撃でホームの富邦が大量5点を奪い逆転。5-4のまま最終回を迎えますが、リリーフ投手が連打を浴び同点に、さらにランナー二塁三塁で3ランホームランを浴びてしまい、試合は中信の逆転勝ちで終わりました。見どころの多い展開の試合でした。
中信 020 110 004| 8
富邦 000 050 000| 5
はい。試合レポートは以上です。ここで野球の技術や戦術について語るつもりはありません。
本題はここからです。
台湾の人たちが全力で応援して全力で楽しむこのプロ野球。これと台湾のプロレス熱が結びつかないだろうか。どうすれば台湾のプロレスも野球レベルの人気競技までいけるのか。というのを試合を見ながら考えていました。野球観戦に没頭すればいいものを、そういうプロレス漬けの思考回路で育ってしまったんだから仕方ない。
そんな個人的な見解を語らせてくださいませ。
独特な応援スタイルと熱気
台湾プロ野球がほかの国のプロ野球と大きく違うところ。それはファンの応援スタイルです。
日本の応援団の音頭やトランペットに合わせてコールや手拍子をする応援スタイルもほかの国からすればかなり特殊なのですが、台湾はさらに応援とその見せ方や参加の仕方が特別なものになっています。
まず、ホーム球団の攻撃時はスピーカーから大音量で勇ましい音楽が流れ続けてます。
一塁側から三塁側まである内野席前方のスペースにはズラリと10名以上のチアリーダーの皆さん(啦啦隊/ララ隊という名称)が。FUBON ANGELSというグループ名です。その人気はアイドル以上、固定ファンはもちろん、メディアへの露出も多数、グッズ販売も選手より多く種類があるほどです。
そのチアリーダーが音楽に合わせアイドルのライブのようにずっと踊って、観客の選手への応援をリードしてくれます。
応援歌というべき歌詞は常にバックスクリーンに字幕で出ているので一緒に歌えます。
チアの皆さんは守備時は席で待機していますが、アウトを取ったりピンチを切り抜けたりという場面でひっきりなしにカメラが彼女たちを映し、それに合わせてポーズと笑顔。
試合の中盤回ではチアの代わりに一般ファンの少年少女が同じように歌い踊り煽ります。
そして、観客の皆さんも老若男女問わず、一緒になって踊ったり声を出したりします。
点を取った時などはそれはもうとんでもない盛り上がり。観客席は総立ちでさらに熱が高まります。
エンターテインメントの成立
そもそも私が現地で台湾プロ野球を観戦したい、と思ったのは、5年位前にネットで見たこのチアリーダーによる試合中の応援動画がきっかけでした。
かわいいとか華やかでなく、ちょっとしたカルチャーショックというか、野球観戦にこれは必要なのか?集中して見られるのか?そもそもお客さんは楽しんでるのか?という疑問でした。混ぜるな危険!だと思っていたのです。
ただ、判断するには映像でなく実際に現場の熱量を様子を感じなきゃ。その機会が今回です。
正直、衝撃でした。
なぜか。全部が成立していたからです。
チアの応援も、選手のプレイも、観客の声援も、それぞれ邪魔をせず全部が絡み合ってしっかり成立しているのです。
これは野球でありながら新しいエンターテインメントのジャンルだ、とすら感じました。
チアリーダーの皆さんはさすがとしか言いようのない振る舞いで、お客さんに見られている意識と、あくまで野球がメインという配慮、そして一緒に応援したくなるような華やかさ。プロとしての正しい姿勢がありました。
そしてチアだけでなく男性ダンサーやDJ、マスコットキャラクターなども賑やかで、野球に応援ショーを組み入れたようなアミューズメントな場になっていたのです。
観客席にも様々なタイプの人がいました。アイドルのコンサートのように観客席からお目当てのチアにレスを送る人。チアのダンスを完コピして一緒に踊る人。熱心にチアの写真を撮りまくる人。選手の活躍を期待して声援を送る人。黙々と試合を見ている人。でも、全員がそれぞれ楽しんでいます。
そして、これだけ自由な様相の観客席なのに、応援するチームが得点したときは全員が総立ちで喜びます。
楽しみ方はそれぞれですが、観客全員の目的が「勝利」でまとまっているのです。
汚い野次やマナーの良くない観客も皆無でした。自由なスタイルですが目的が一緒だからです。
試合に負けてしまっても、多くも観客が試合後の選手とチアリーダーに拍手を送っていました。そして帰路に就く人たちの表情は試合に負けた悔しさよりも「楽しかった!」「次また見に来よう!」という満足感が出ている気がしました。
勝負論がファンの熱だと思っていたプロ野球で、勝敗以外の部分、この応援スタイルが野球という競技と融合して新しいエンタメになり、球場全体がそれぞれの楽しみ方で盛り上がる。
これぞ、完全に「プレイヤーとオーディエンスの一体化」です。
野球を知らなくても誰もが楽しめる。明快なアミューズメント空間。
実はこの形こそが、自分が理想とするプロレス観戦の在り方なのです。
一体化・目的の共有・娯楽空間
プロレスファンはとんでもない大きさの熱量を持っています。それは日本でもアメリカでも台湾でも変わりません。
ただ、その熱を放出する方法が人それぞれ違っていて、プロレスを知らない人からするとその熱の出し方やほかの人への影響が良くないような、誰もが楽しめるような空間にはなっていないような気がします。
どうしてプロ野球は一体化できるのにプロレスにそれが生まれないのか。と考えたとき、観客の目的がそれぞれ違うからだとわかりました。
もちろんジャンルが違うので、日本のプロレスが台湾のプロ野球のようになれば良い、ということは思いません。おそらく、野球でも日本でこの応援スタイルは馴染むことはないでしょうし。
特に日本のプロレスは、100人いたら100通りの見方をするジャンルであって、それが良さのひとつでもあるので、今のままでいくべきだと思います。
ただ、台湾でプロ野球への熱がここまであるならば、台湾のプロレスもこの環境に近付けないだろうか、ということは感じました。
台湾ならではの、一体化。目的の共有。アミューズメント空間。
台湾のプロレスと未来
例えば。
台湾のプロレスが今以上にわかりやすさ全開になれば。
ベビーフェイスとヒールの差をさらに極端に表現する。
入場やマイクアピールなど試合以外の部分をより充実させる。
声援を出しやすく選手が率先してアジテーションする。
など、そういった台湾プロ野球で感じた「一体化」を強調した手法を打ち出せば、観客の「楽しかった!」「次また見に来よう!」が一層強くなる気がしました。
加えて、台湾の言語だからこそ成立するリズムでの声援や掛け声だったり、台湾のリングじゃないと見られないようなキャラを作り出せば、「TAIWAN PROWRESTLING」という新たなジャンルが生まれる可能性だってあります。
テレビ中継の影響や近隣国ということもあって、見せ方や試合の組み立てが日本のプロレスに寄ってる部分は大きいと思います。
もしかしたら、意識すべきはむしろ日本ではなくアメリカの大手団体。スポーツよりもエンターテインメントショーへ比重を強くすることができたら、台湾のプロレス界は大きく変わる予感がします。
もちろん、興行スタイルや宣伝方法など規模は決して大きくはないので、良きところはしっかり伝承して、日本っぽい激しい試合スタイルも入れつつ。
ひとつのジャンルとして広く認知されるきっかけとして、こんな変化があればどうなるかな…と想像してたら、プロレスそのものの可能性が嬉しく思えました。
一体化できる娯楽の可能性
台湾のプロ野球、初見は本当に驚きます。
新鮮というよりも、これでいいんだ!という目から鱗が落ちるような驚きです。
国によって文化も風習もまったく別ですが、台湾プロ野球には世界共通の娯楽の本質が詰まっているのかもしれません。そこにはヒントがたくさん散りばめられていました。
そして、どんなジャンルも今以上に活性化する可能性があって、それを探っている時期こそ悦ばしくもあります。
日本のプロレスも負けてらんないな、と。
世界で一番の娯楽になる可能性をもっと広げたいな、と。
今回のまとめ。
娯楽の楽しみ方はその国の象徴。
そして、バランス良く一体化した娯楽は最高。
ちなみに、啦啦隊のパフォーマンスはそれぞれの本拠地球場でないと見られません。
すっかり感銘を受けた私。
いつか、啦啦隊を目当てに台湾へ行く日が来るのでしょうか…?
峮峮さんが見たいです。
では、またここで。