漫画の世界では「パイレーツな王に俺はなる!」と目標を掲げて連載開始から27年間経ってもまだ王になれない国民的な主人公もいますが、プロレスの世界では団体最高峰の王者にデビューから約10年未満のキャリアで就くことが多く、中では3年足らずで到達する早熟な選手もいます。
若い王者の光景は新鮮でキラキラしてます。
ですが、その若くして団体の王者になった選手の見せない部分での苦悩は相当なものかと思います。
今回は短いキャリアでチャンピオンになった選手をどう見ていくべきなのか、を考えていきます。
「一番」という価値
競技というものでは、誰もが「一番」を目指します。
チーム戦では優勝。個人は金メダル獲得や記録の樹立など。格闘技に関してはチャンピオンや横綱という称号です。
もちろん、プロレスの世界でも選手は一番を目指します。
ただ、それがほかの格闘技とちょっと違うのが、各プロレスラーによって異なる一番の価値。
「一番強い」なのか、「一番かっこいい」なのか、「一番試合が面白い」なのか、「一番印象に残る」なのか、そのてっぺんは選手それぞれです。
選手としてはそれで良いですが、団体側としてはそういった曖昧な概念では試合が組めません。そこで、チャンピオンベルトという形のあるものでその団体の一番を明確化します。
現在ベルトを保持しているこの選手が団体の「一番」であり主役だとはっきりせされば、はじめてプロレスを見るお客さんにも伝わります。
若いチャンピオンの苦悩
そして、チャンピオンの世代交代が活発なのが現在の日本のプロレス界。
多くの団体でキャリア5年前後、20歳代の選手が団体の主役として活躍してます。
若い選手がチャンピオンになることは団体の未来への希望や新しいファンの獲得にもつながりますし、選手にとっても大きな経験になります。
一方で、団体やファンに期待されるプレッシャーも半端なく、それに押し潰されることも、ファンの支持や成果を残せぬまま王座を退くことも多いです。
プロレスファンは不思議なもので、新しいものをすぐ受け入れない傾向があるんです。
ほかの競技ではルーキーが大きな記録や結果を残せばすぐに評判になり、ヒーロー誕生として絶大な人気や盛り上がりを得ます。
ですが、プロレスではデビュー直後から強い、結果も出す、すぐにチャンピオン、そんな選手が出てきたらまずファンは偏見もあって首を傾げます。
この選手のどこが良いの?この選手は本物なの?主役に相応しいの?
ベルトを持っている現実と、ファンの反応や支持が思った以上についてこない現実。この合致しない現実が若いチャンピオンの苦悩のひとつです。
声援はもらえる。あらゆる仕掛けやスタイルを駆使して戦っている。でも、いつも挑戦者で自分よりキャリアのある相手の方に歓声や視線が注がれる。
果たして「一番」ってなんだろう…。プロレスってなんだろう…。という苦悩。
若いチャンピオンに不足しているものは何か。
それは、自身の物語、なんだと思います。
強さや相手だけでなく自己表現力や観客との勝負であるプロレスでは、経験値というものが重要。
そうです。こればかりはキャリアを積み重ねない限りどうにもならないものなのです。
一気に頂点に駆け上る選手に魅力がないわけではありません。むしろ才能にあふれてます。そもそも、選手の価値があるからチャンピオンにまでなれるのですから。
苦悩するチャンピオン時代は主役でもありながら、その経験値を積んでいる時期なのです。
そう、次のチャンピオン時代のために。
挫折は飛躍のために
プロレスラーの好調と不調、挫折と復活は大きな経験であると同時に見る側への訴求効果も高く、感情移入がしやすくなります。
それが、作られたものではなく自然発生したスランプならなおさら。
もちろん、波にのまれて下降したまま浮上できない選手もたくさんいました。
そこから這い上がってきたときに、その選手の苦悩や躓きが物語の厚みにつながります。
挫折・低迷から復活・飛躍という価値が加わると、選手にトレーニングやセンスだけでは手に入れられない強さとは別の場所にある人間味が加わり、さらにプロレスの幅と自己表現力が大きくなります。
その力はいつも自分を応援してくれるファンだけでなく、今までスルーしていたり以前はアンチだった層までも巻き込む大きな渦です。
むしろ、チャンピオンじゃなくなることは大チャンスなのです。
「じゃなくなる」で得るもの
興行のメイン、ビッグマッチでのタイトル戦、そういう重要な場面で結果を常に求められるチャンピオンは信頼も大きいですが不自由さもあります。怪我があっても体を酷使しなければなりません。
充分な期待に応えられないままベルトを手放す悔しさもあるでしょうが、その重圧が肩から下り自由に自己表現ができる場面になったとき、選手が大きく跳ねるケースが多々あります。
その場面で“元”チャンピオンがどう変化するか。このまま埋もれてしまうか。
このタイミングが見ていて一番面白く、実は王者時代よりも注目なのです。
ベルトのない状態で観客に何を与え何を伝えられるか。
どれだけ自己表現力を高められるか。
そして、次にその王座に返り咲いたときに前回とは違った自分として何を見せられるか。
何度でもそのチャンスはあります。
失敗すら食べてやる!
今回のまとめ。
プロレスは、やり直せるジャンル。
むしろ、転んだあとに立ち上がる姿が美しい。
失敗という言葉はプロレスにはありません!
全部、種だと思います。
種を撒いて、しっかり育て実らせ、いつどんなタイミングで収穫し、どんな味になるのか。
それらはすべてそれぞれのプロレスラーの努力と愛情の成果です。
その実を食べられる機会が楽しみだし、いつでも食べられるよう、おなかをすかせて待っています!
さあ、おなかもすいたし、ごはんを食べよう。
プロレスを見よう。
では、またここで。