プロレスとタイパ、の話

コラム

2022年くらいからでしょうか。「タイパが良い(悪い)」という言葉をやたら目にします。
「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略で、簡単に言うと「時間効率」。
費やした時間と得られた効果や満足度の対比を表す言葉です。
それが是か非か、というのはここでは触れません。時代は移りゆくもので、トレンドも意識も変わり、必要がなければやがて淘汰されていきますから。

では、プロレスにおいて「タイパ」は重視すべきなのか。
タイパ時代に対応したコンテンツを作り出すべきか。
今回はそれについて考えてみます。

プロレスとタイパの向き合い方

時間効率を意味するタイパ。
生活や仕事においては、1日24時間の限られた時間をどう「有効的」に利用するかがポイントで、ただ早く済ませる、急ぐ、時間短縮する、とは違うと思います。何かと何かを同時に行う、ということでもないはずです。
プロレスでは会場観戦はもちろん、配信でもリアルタイムであれば時間短縮の倍速再生はできません(過去の試合動画やSNSで流れてくるショート動画は倍速再生が可能ですが)。
また、自分の経験上、プロレスはほかの作業と視聴を同時進行する「ながら見」は難しいです。プロレスにながら見は向いていません
配信ならSNSをチェックしながら、会場なら写真を撮りながら観戦する人もいますが、あくまでプロレス観戦の延長線上にある“ながら”なので、それはまだ可能でしょう。

アメリカの世界最大団体WWEが今年(2024年)5月に「WWE Speed」を立ち上げました。
これは、WWEがX(Twitter)と配信契約し、3分1本勝負の試合動画を毎週1試合ずつ投稿する、というまさにタイパを意識した新ブランドです。
また、引退した某大物選手は「これからのプロレスはスマホで見られていることを意識していかないと」と語っていました。
画面の大きさもそうですが、スマホでいつでもどこでも試合が見られるというのは、倍速視聴もフィニッシュだけ見ることも途中で止めることもできる、ということが含まれていると思います。
総合格闘技界ではブレイキングダウンが一般層からも注目を集めており、あらゆる要因はありますが、試合形式が1分1ラウンドという異質さも、タイパの時代に合わせた戦略のひとつでしょう。

そんな変化もあり、ネットニュースなどで「プロレス業界もタイパの時代に合わせたモデルチェンジを…」とか偉そうなことを言ってる人がいますが、そういうのは十中八九、プロレスをちゃんと見ていない人です。そういう人ほど外野から好き勝手に言いやがるのです。

だって、プロレスにタイパは不向きなんですから。
結論、出ちゃいました。
これはプロレスが好きな人こそみんなが断言するでしょう。

楽しい!の物差し

これから好きになる。まだ見たことはないけど興味はある。そんなプロレスの入口に立っている人たちにとって、タイパを意識したコンテンツは導入として役立つはず。まずはどんなものかを知るために時間はかけたくないはずですし。
大事なのは、いざ会場や配信でリアルタイム観戦したとき、感情がどう動いたか、です。
プロレスをはじめて見たときの観戦後の感想として「ひと試合が長かった」と感じた人は、きっとプロレスを娯楽にするのに向いていないと思います。
というか、どんな趣味どんなジャンルでも「長いな」と感じたら、それは「やや退屈」=「夢中になれていない」ということ。体感時間の長短時間帯満足度が、自分がそれを娯楽として楽しめているかどうかの判断基準になっているのではないでしょうか。

見る側の集中力 やる側の技術

プロレスは、ほかのスポーツのように試合時間は決まってますがどこで決着がつくかわかりません。そして、そんな試合がひとつの大会で7試合前後あります。イニング数が決まっていたり、何点取ったら終了というゴールラインもありません。時間無制限1本勝負なら何日間も戦い続けることだってなくはない話なんです。
かといって、すべての試合が長いわけではなく、短時間で試合が終わることもあります。
長かれ短かれ、目の前で起こっている試合が見る側の想像を超えたとき、ファンは興奮熱狂します。そんな意外性がプロレスの魅力のひとつです。
30分を超える長時間の試合。秒殺ともいわれる短時間の試合。それは観客にも選手にもそれぞれ好き嫌い、向き不向きがあります。
見ていて「この試合は〇分で終わります」と最初から決まっていると興味が散漫になるはず。いつどんな技が決まるか、いつ驚愕のアクションが出るか、いつ決着するか、わからないから目を離す暇がないのです。
だからプロレスは「ながら見」ができません
何が起こるかわからないので、見る側にも集中力が必要なジャンルですが、その分、共有できたときの驚きや喜びがとても大きいのです。
そして、その喜びを与えてくれる側の選手にも、長時間でも飽きさせない攻防や技の応酬とパフォーマンス、短時間でもインパクトが大きく各選手の個性を光らせる手法、その技術が求められます。
選手が必要とされる集中力は見る側の遥か上をいっています。
その超人的な技術と集中力のもと、時間を感じさせない試合を作り出したとき、プロレスラーは凄いな!とファンは痛感させられます。

この時代に求めたいこと

コロナ禍で制限されたプロレス界で、一番発達したのは動画配信サービスの充実です。
逆にそれによってタイパの良いプロレスを意識せざるを得なくなってしまった、という問題点も生まれました。
それにどう対応するかは各団体の判断ですが、もしタイパを意識し何か新たなコンテンツを始めるならば、毎週、いや毎月に1本で良いので、各団体でその月に起こった出来事や事件、注目の試合のダイジェスト、記者会見などを編集した「プロレスニュース」動画を制作し、公式のYoutubeや各SNSから無料で配信してほしいのです。
おそらく入口に立っている人がタイパで見たいのは試合そのものではなく、プロレスってどんなものかという大まかな世界観なのかと。
そのニュース的な動画を手軽に見られたら顧客拡大に繋がる気がしますし、導入がダイジェストなら実際に観戦する試合は時間をかけて見るものという前提にもなります。
各団体の展開はタイパでチェック、会場観戦や生配信はタイパを意識せずに思う存分楽しむ
これが時代も反映させたタイパの良いプロレスかと思います。

娯楽って、そういうもの

今回のまとめ。

好きなものに、時間効率なんて無縁です。
これこそが、娯楽です。

自分の好きなプロレスというものは
集中力が必要なプロレス。
目の離せないプロレス。
見終えた後の余韻でしばらく何も手につかないようなプロレス。
時間を気にしないプロレス。

プロレスにタイパは不要です!
大好きなものに時間をかけるのは人生の特権ですもん。
プロレスにはこれからもどんどん時間をかけていきたいですね。

ちなみにこの記事。全部で2,860字。読むのに約15分かかるようですよ。
タイパを重視する方々。


では、またここで。

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