そのときの自分の感情を言語化した場合、受け手へ意志を完全に伝えるのは至難の業ですよね。
競技エンタメの世界も同じで、非日常の空間を言葉で表現しても、それをありのままイメージしてもらえるのはほぼ不可能です。
野球や将棋などスポーツや競技には文字だけの試合詳細レポートで状況が把握できるものもありますが、真逆で一番伝えにくいものはプロレスかもしれません。
今回は「テキスト(文字情報)とプロレス」についてのお話です。

プロレスをテキスト化するとこうなる
毎年12 月に行われる恒例行事、みちのくプロレス後楽園大会の「宇宙大戦争」。現地観戦や配信視聴であればその試合の良い意味でのヒドさはまさに一目瞭然なのですが、ネット記事での試合詳細レポートは試合の内容と比例して文章に厚みもあり、その意味不明な文章と支離滅裂なイメージで脳から煙が出てしまいます。文字だけでは想像力が追いつかない典型的な例です。(2024年の詳細レポート→◆)
これに限らず、通常の試合も含めてプロレスは目で見て刺激を受ける競技であって、テキストだけで試合の攻防や展開などの状況把握はかなり困難です。いや、もう無理でしょう。

文字情報で試合詳細をイメージできるか
ネットがなかった時代、TV中継のない地方大会。新聞や専門誌などの試合結果の欄に小さな文字だけで掲載されていた「猪木 木村 〇武藤(9分54秒 前方回転エビ固め)バーバリアン アレン ×ヘルナンデス」という情報だけを頼りに、この試合の内容や流れを想像していました。それが正解かどうかではなく、それも当時のプロレスの楽しみ方のひとつでした。
現在はネットから各団体の公式サイトがマスコミ不在の地方大会でも試合詳細を克明にレポートしてくれます。
ただそれは文字情報だけなので実際にどんな動きや攻防があったのか、100人が見て100人同じイメージができるかと言えばそれは難しいでしょう。
試合は言葉で表現できない攻防や駆け引きが多いです。技名が長くて多様で複雑でもあります。そこにいる全選手が常に何かのアクションをしています。このようにプロレスの試合は文字情報には不向きといえます。

長いテキストより1枚の写真
実際、プロレスが日本に根付いたのはテレビ放送開始と同時期です。ラジオや新聞だけの時代だったらもしかしたら繁栄していなかったかもしれません。映像や写真向け、逆を言えば、目で見ることが前提の競技です。
また、週刊プロレスや週刊ファイトなどの雑誌が文字情報だけでも支持者を得ていたのは、試合の内容をいかに細かく伝えるかではなく、各記者がその試合をどう捉えたかという私見的レポートとしての記事構成に編集方針を傾けたことによるものです。
もちろん、先程書いたネットがなかった時代のように、最小限の文字情報だけで想像力を働かせることができるのはプロレスの醍醐味のひとつです。
プロレスは見る側が考えられる競技です。その必要最低限の想像素材として配られる文字情報があるのはありがたいのですが、それだけで試合の盛り上がりや駆け引きまで把握できないのが現実です。
現代であれば、どれだけ長い試合詳細レポートよりも、SNSに投稿された客席からのその試合を象徴する写真の方が説得力があります。ファンも1枚の写真や10秒の動画でその試合の熱を測り知ります。
このままいくとプロレスの試合詳細レポートは需要がなくなり、公式すらそれをテキスト化しなくなってしまうのでは…。想像して楽しんでいた者からするとそれは実に惜しいのです。

旗揚げ「テキストプロレス」!
そこで、アイデアが浮かびました。
「テキストプロレス」があればいいのに!と。
選手の感情表現やト書きなどの装飾語を一切用いず、テキストの試合展開だけで盛り上げて名勝負を作り出す。写真は一切使わずテキスト化した試合詳細レポートのみ。読んで試合内容を想像するプロレス、です。
普段リング上で起こる出来事を文字だけで表現する新しいプロレスの形。既存の選手が読み手の想像力を使って固定観念という枠から飛び出し、実際には実現不可能な試合を作り出すことも可能です。
文字情報だけのプロレスなので観客(読み手)のイメージは統一化されませんが、その見解の違いを共有すればファンそれぞれの価値観も知れて興味深いのでは。

読むプロレスでベストバウトを
テキストとプロレスの相性は、良くないどころか交わらないもの。というテーマで書き進めたのですが、最後に我ながら良いアイデアが浮かびました。
常識を覆すことがプロレスで得た教えですし、イマジネーションもプロレスで鍛えられましたから。
いつか、テキストプロレスのベストバウトを決める選考会があってもいいと思います。直木賞や芥川賞のように。
今回のまとめ。
プロレスは文字情報には不向き
だからこそできる新しい手法があるのかも

と「ナイスアイデア!」とひとりで盛り上がっている自分の感情は果たして今回の文章でどれだけ伝わっているでしょうか…。
やっぱりテキストで感情を伝えることは難しいですね。
では、またここで。