12月14日はいわゆる「忠臣蔵」の日。浅野内匠頭の仇討ちのため吉良上野介邸へ赤穂浪士と呼ばれる四十七士が討ち入りをした日です。日本ではその出来事がやがて史実と創作を交えた物語となり、現代まで語り継がれています。
仇討ち目的で身分の高い主君の首を獲る、という造反行為が痛快な美談になるのは不思議な感じもしますが、自分より立場が下の人間から襲われる。信頼していた人が突然反旗をひるがえす。今から200年程前までは当たり前だったこういう内紛事件は日本では今や教科書の中だけの話。現代ではそういった裏切りや追放が絡む大きなインシデントは皆無になりました。平和が一番。
プロレスに裏切りと追放は付きもの
一般的な日常生活において、誰かに裏切られる、組織から追放される、そういう体験をした人はほんの僅かと思います。もしあるとしたら、その人は一国一城の主を営まれている方、もしくは地球征服を目論む秘密結社にお勤めの方くらいではないでしょうか。
そんな、自分が体験することも現場を見ることも一生に一度あるかないか程度の日常とはかけ離れた場所にある「裏切り」と「追放」ですが、それが結構な頻度で見られちゃうアメージングなジャンルがあるの、ご存じですか?
ええ、プロレスっていうんですけどね。
ひとつの大会で「どこかで必ず誰かが誰かを裏切る…!」というクソつまらなそうな邦画のキャッチコピーのように毎回必ず起こるわけではないですが、1年通してプロレスを追いかけていれば間違いなく裏切りや追放の瞬間が見られますし、内部抗争が盛んな団体だったらあなたが散髪するペース以上に裏切りと追放が起こってます。
人との仲や縁を切るのが裏切り・追放ですが、プロレスと裏切り・追放は切っても切れないものなんですね。
今回は、プロレスにおける裏切りと追放について考えてみました、のお話。
裏切りや追放へのプロセス
1980年代から特に、同じ目的を持つ選手同士が集まりユニットを結成し、その団体にある他のユニットと軍団抗争劇を繰り広げます。これは現代プロレスの基本的な展開軸でもあります。
最初は見事なチームワークと結束力で戦っていく同ユニットの選手たちですが、やがて「なぜ俺はあいつより格下なんだ」「チャンスが巡ってこない」「こことは違う目的ができた」など様々な理由でユニット内部で不協和音が起こり、それが積もり積もって裏切り行為やメンバーの追放処分に繋がっていきます。
そして、出ていった選手は他のユニットに移ったり、自ら新しいユニットを作ったりで、団体内の軍団抗争がさらに活性化。解散したり吸収されてユニットが消滅する場合もあり、ユニットの抗争は過熱するばかりです。
プロレスラーは組織に属していても、向上心と野望は忘れません。ユニットや団体は皆が皆、個々で「自分が一番」と思っている自己至上主義者の集まりです。
そんな環境は200年ほど前の日本と同じ。裏切りや追放がたびたび起こるのも無理はありませんね。
ちなみに、団体によって裏切り・追放の発生率が変わるので、それはお好みによりけり。また、退団や移籍によるシビアな団体離脱はここでの裏切りや追放に含みません。これはまた別の話。
事件が起こるのは突然
『世の中興奮することってたくさんありますけど、裏切りって興奮しますよね』『間違いないね』『あ、こんな所にパイプイスがある、興奮してきたな、ちょっと裏切ってみよう』で始まる漫才は見たことないですが、プロレスの裏切りは実に興奮します。堪らない瞬間です。
きっとプロレスが好きな人は皆さん、裏切りと追放が大好物なんじゃないでしょうか。
もしかしたら今度の試合であの選手が…?という匂わせも大事です。
そこで「やっぱり裏切った!」「追放されると思ってたんだよー」という予想通りパターンも多いですが、最近は手が込んでいて、「この選手が裏切ると思ったら隣でずっとなだめていたお前が裏切るのかい!」とか、「あの選手に追放フラグがビンビン立っていたのに、まさかその人が首謀者で逆にリーダーを追放するのかよ!」という大逆転な裏切りもあったりして、私たちは会場やパソコンやスマホの前で周囲の状況にお構いなしで大きな感嘆の声を出してしまうのです。
また、裏切った選手の立場やキャラ次第ではショックと唐突さのあまり絶句して気持ちがどんよりすることもあります。
どれだけプロレスを見続けていても、裏切りや追放の瞬間はインパクトが強烈。そのシーンに毎回驚かされ、興奮状態に陥ってしまうのです。
いつ誰がどこで裏切ったり追放されるかわからないので、試合前からそればかりを気にしていると目の前の試合やマイクアピールが入ってこないので、先入観に蓋をしてプロレスを観戦するのですが、そういうときに不意打ちで起こるんですよ。その発生率が絶妙過ぎるので、毎回「やられたっ!」となります。もちろん、そのときの表情は笑顔です。だって、大好物だから。
裏切り・追放の注意点と治療法
ただ、反響が良かったからまたやろう、という突拍子もない裏切り・追放は見ていて逆に醒めますし、お客さんは置いてけぼりです。裏切りと追放は用量や用法を守って正しく使いましょう。
また、お気に入りを見つけたばかりのプロレス入りたてなファンの人が推している選手がもし裏切ったり、追放されたりしたら、ちょっといたたまれない気持ちにもなったり。
何年何十年も見ているファンですらドキッとする場面ですから、免疫が付いていないと推していた心も傷ついて、場合によっては立ち直れなくなりプロレスから離れてしまう危険もあります。
観客全員が笑顔になれる裏切り・追放なんてありません。だからこそインパクトが強いのです。
なので、おそらくヒールとして見られる裏切ったり追放したりした選手は、その後の立ち振る舞いを徹底的に悪に傾けてください。その方がファンも心から憎めますし、逆にそこまで悪事に手を染めるなら私も染まる!と覚悟もできます。
そして、裏切られたり追放された選手はどーんと落ち込んでください。同じ気持ちになっているファンと感情を共有させてください。で、その後大復活してそのとき以上の活躍っぷりを見せてくれれば悲しんでいたファンも気分爽快です。
要は、裏切りや追放で観客の心を動かすだけではなく、そこをスタートとしてさらに心を揺さぶってほしいのです。
プロレスを見ているときの私たちの気持ちは、全部プロレスラーの皆さんに委ねていますので!全幅の信頼を寄せていますので!
裏切りと追放は永遠に続く
現代社会では体験することのない裏切りや追放の瞬間が度々見られるプロレスは、非現実の中の非現実を提供してくれる他にないジャンルです。
そして、驚きや衝撃を与えてくれるだけでなく、私たちの高揚感と選手の可能性を増幅させてくれるプロレスにとって重要なインシデントです。
今回のまとめ。
それは観客にとっての醍醐味
それは選手にとっての起爆剤
炎々とした裏切りと追放で延々とプロレスは作られる
そういえば、赤穂浪士の皆さん、47名もいるのに吉良側とのユニット抗争中に内部の裏切りや追放は起こらなかったのでしょうか。
だとしたら、…プロレス的には面白くはないなあ。
来年の忠臣蔵大会では、AKR47(赤穂浪士)の誰かが突如として「内蔵助ぇぇ!」とパイプイスを振り下ろし、キラキラ★吉良へ電撃加入…!なんて裏切り追放サプライズが起こることに期待しています。
では、またここで。